個人事業者等まで広がる注文者の統括管理、2026年4月からの現場の把握方法
2026-09-23
午後二時の現場を思い浮かべてください。三階では内装、地下では設備、屋上では防水の作業が同時に進んでいます。いま手を動かしている人のうち、自社が雇用している労働者は何人でしょうか。多くの現場で、答えは「思っていたより少ない」になります。協力会社の社員がいて、応援で入った一人親方がいて、資材を降ろしに来た運送会社の運転手がいます。
これまで労働安全衛生法の保護は、雇用する労働者を中心に組み立てられてきました。2026年4月1日から、その組み立てが変わります。注文者が講ずべき統括管理の対象に、個人事業者等を含む「作業従事者」が加わるためです。根拠は労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律、令和7年法律第33号です。2025年5月14日に公布されました。
この話を社内に持っていくと、決裁の席でだいたい同じ反応が返ってきます。「自社の社員でもない人まで、うちが面倒を見るのか」。制度の言葉としてはそのとおりなのですが、現場の言葉に置き換えると、この改正はまったく別の問いになります。「いま、この現場に誰がいるのか」です。作業間の調整をするにも、危険な作業の時間をずらすにも、相手が誰でどこにいるかが分からなければ手が出せません。
この記事では、何が義務になり何が努力義務のままなのかを分けたうえで、施行日をめぐる誤解を正し、現場にいる人を把握する四つの方法を並べて比べます。
I. 何が義務になり、何が努力義務のままか
令和7年法律第33号は、個人事業者等を労働安全衛生法の保護対象であり、同時に義務の主体でもある存在として位置づけました。ここに入るのは一人親方やフリーランスだけではありません。中小事業主の代表者や役員も含まれます。
義務になったものを並べます。第一に、注文者の統括管理の対象に、個人事業者等を含む作業従事者が加わりました。元請にとっては、同じ場所で働く人の範囲がそのまま広がるということです。第二に、個人事業者等自身にも措置がかかります。構造規格を満たさない機械を使わないこと、定期自主検査を行うこと、安全衛生教育を受けることです。第三に、業務上の災害を報告する制度が整備されました。
一方、同じ改正法の中に努力義務も混じっています。高年齢労働者の労働災害防止に必要な措置がそれです。国が指針を公表することも、あわせて定められました。義務ではありません。ここを取り違えると、社内の説明資料は一行で信用を失います。
もうひとつ、混同されやすい場所があります。リスクアセスメントです。建設物、設備、原材料、作業行動などについてのリスクアセスメントは、労働安全衛生法第28条の2の努力義務です。義務なのは通知対象物、つまり化学物質についての第57条の3のほうだけです。「リスクアセスメントをやらないと罰則がある」という説明は、化学物質の話をしているときにだけ正確です。
義務と努力義務の違いは、社内で予算を通すときの言葉の強さに直結します。だから、一行ずつ分けて書く価値があります。
II. 施行日はひとつではありません
ここがこの改正のいちばん危ない場所です。
厚生労働省の改正概要には、施行期日が七つに分かれて並んでいます。公布日に施行された部分、2026年1月1日、原則施行日である2026年4月1日、2026年10月1日、2027年1月1日、2027年4月1日、そして公布後の政令で定める日です。ストレスチェックの対象拡大と、化学物質関係の一部が、最後の政令で定める日にあたります。
注文者の統括管理の対象拡大は、このうち原則施行日、2026年4月1日です。
問題は2026年1月1日のほうです。「個人事業者等への措置は2026年1月1日から」と書いている解説をいくつも見かけますが、厚生労働省の概要に照らすとこれは誤りです。1月1日に施行されたのは登録機関に関わる項目であって、個人事業者等への措置ではありません。日付がひとつずれるだけで、社内の準備スケジュールは三か月ずれます。
個人事業者等に関わる部分も、4月1日で終わりではありません。2027年1月1日と2027年4月1日に施行される項目が残っています。個人ばく露測定を作業環境測定に位置づける改正は2026年10月1日です。
つまり、「2026年4月にすべて施行される」は誤りです。自社に関係する項目がどの段階にあるかは、厚生労働省の改正概要で項目ごとに確認してください。改正全体の施行スケジュールは労働安全衛生法改正2026の施行スケジュールにまとめています。
III. 統括管理の実質は「把握」です
統括管理という言葉は硬いのですが、中身は地味です。連絡調整と、作業間の調整です。
具体的にはこういう場面です。三階で溶接をしている真下で、内装の職人が可燃性の資材を開梱しているとします。どちらも単独では正しい作業です。危ないのは重なった瞬間だけです。だから時間をずらすか、養生を入れるか、どちらかを決めます。この判断に必要な情報はひとつしかありません。いま、どの区画で、誰が、何をしているか。
対象が自社の労働者だけだったころは、名簿でおおむね足りました。朝礼に出た人が今日の現場にいる人でした。個人事業者等まで対象が広がると、その前提が崩れます。名簿に載らない人が現れるからです。午前だけ入る一人親方、資材を降ろして三十分で帰る運転手、点検で立ち寄った設備業者。統括管理の対象は、雇用関係ではなく「同じ場所で作業しているかどうか」で決まります。
ここで、はっきりさせておくべきことがあります。この改正に、記録や保存の義務はありません。 あるのは業務上の災害を報告する制度です。「改正で記録が義務化された」と書いてある資料は正確ではありません。把握が必要になるのは、記録が義務づけられたからではなく、連絡調整という義務を実際に果たすために要るからです。義務がないから要らない、という話ではありません。義務を果たしたという事実は、結局どこかにデータとして残っている必要があります。
では、どうやって把握するか。現場で使われている方法は、大きく四つです。
| 区分 | 入退場のゲートとカード | スマートフォンのアプリ | 着用型の位置タグ | カメラ |
|---|---|---|---|---|
| 分かること | ゲートを通過した時刻 | アプリを入れた人がいる区画 | タグを着けている人の区画と位置 | 映っている範囲の人数と行動 |
| 分からないこと | 通過したあとの居場所 | アプリを入れていない人 | タグを着けていない人 | 死角と、人が重なった場面 |
| 個人事業者等への配りやすさ | カード発行の手続きが要る | 私物の端末に入れてもらう依頼が要る | 入場時に貸し出し、退場時に回収 | 本人側の準備は不要 |
| 初期に要る工事 | ゲートと通信の設置 | ビーコンの設置 | アンカーの設置と電源 | カメラと配線 |
| 向いている用途 | 出面と労務の管理 | 常用の自社社員 | 危険区画の管理と緊急時の所在確認 | 通路や開口部の常時監視 |
四つを並べると、性格の違いがはっきりします。ゲートの記録は「通過」という出来事の記録であって、「在場」という状態の記録ではありません。統括管理のために要るのは後者です。四つのうち、在場の状態を継続して持てるのは着用型の位置タグで、タグを持たない人と、その人がいま何をしているかはカメラが埋めます。
入退場管理システムを捨てる話ではありません。出面と労務の管理には引き続き要ります。建設キャリアアップシステムのカードリーダーを入退場の記録に使っている現場もありますが、これは法律上の義務ではなく、あくまで各現場の運用です。足りないのは通過したあとの空白で、そこを屋内測位が埋めます。UWBを使えば区画単位どころか数十センチ単位まで設計できますが、統括管理の用途では区画単位で足りることがほとんどです。
IV. 仕様表で選ぶ装備と、現場で生き残る装備は違います
予算が通って装備を入れても、三か月後には倉庫にある装備があります。現場で生き残る装備には、共通点が三つあります。
ひとつめは着用率です。安全装備の性能は、仕様表ではなく着用率が決めます。タグを百個買っても、毎日七十個しか戻ってこない現場の実質的なカバー率は七割です。そしてこの改正で対象になった人たちは、毎日同じ顔ぶれではありません。一人親方も運送会社の運転手も、今日はじめて来る人が混ざります。装備そのものより先に、入場の動線で渡して退場の動線で回収する仕組みを設計する必要があるのはそのためです。安全帽や作業着に付けたまま、普段の動作のまま使える形がいちばん長く続きます。
ふたつめは管理画面の数です。カメラのシステム、着用機器のシステム、入退場のシステムが別々にある現場は珍しくありません。それぞれは正しく動きます。ところが事故は、その三つのあいだで起きます。管理者が画面を三つ行き来しなければならないなら、結局どの画面も見なくなります。
みっつめは残る記録です。さきほど書いたとおり、この改正に保存義務はありません。それでも、業務上の災害を報告する制度がある以上、誰がいつどの区画にいたかがデータで残っていれば、報告にかかる時間はまったく変わります。装備を選ぶときに「記録がどんな形で、どれだけ残るか」を聞いておかないと、必要になった段階でもう一度お金を使うことになります。
そして、位置と映像は、別々に置いてあるあいだは半分の値打ちしかありません。
カメラは強い装備です。保護帽の未着用、危険区画への進入、転倒といった場面を、人より疲れずに見続けます。ただし死角があります。構造物の裏、地下、骨組みが上がったばかりの区画は画面の外です。着用型の位置タグはその逆で、カメラがない場所でも人がどこにいるかを教えてくれますが、その人がいま何をしているかは分かりません。
だから、この二つは競合ではなく補完です。問題は、二つが別の会社の別の画面にあるときに起こります。同じ図面の上に重ねて初めて、「三番区画に二人いて、そのうち一人がいま転倒した」という一文ができあがります。
ORBROはこの一文を作るために、タグのハードウェア、現場側のエッジ機器、管制ソフトウェアを自社で作っています。作業者が携帯するUWBタグの位置と、映像から事象を検知するAI Event Managerの結果が、管制ソフトウェアORBRO OSの同じ図面の上に並びます。図面に描いた危険区画に入った瞬間、管理者の画面と着用機器の両方へ通知が飛び、発生位置と対処の履歴が同じタイムラインに残ります。建設現場向けの構成は建設現場の作業員安全管理にまとめています。
位置と映像を別々のベンダーから買うと、この統合は導入した側の宿題になります。タグから現場側の機器、管制ソフトウェアまでを一つの手で作っている構成であれば、図面をそろえる作業も、画面を一枚に保つ作業も、あらかじめ済んでいます。
V. 導入前に確認する五つのこと
- 自社が注文者や元方事業者に当たるか、どの作業が同じ場所での混在に当たるか。統括管理の対象範囲を、契約の形ではなく作業場所で引き直します。
- 名簿に載らない人を、どこで拾うか。入場の動線でタグを渡すのか、カードを発行するのか。一日だけ入る人と週に一度来る人で運用を分けるかどうかも、先に決めておきます。
- 貸出と回収の運用。回収率がそのまま実質のカバー率になります。誰が渡し、誰が回収し、戻らなかったときに何をするかまで決めます。
- 管理画面が何枚になるか。既存のシステムと統合されるのか、モニターがもう一台増えるのか。導入前に確認します。
- 記録がどんな形で残るか。保存期間、書き出しの形式、あとから遡る方法。業務上の災害を報告する場面で、どの画面を出せるかを先に描いておきます。
おわりに
制度が変わるという知らせは、たいてい負担として読まれます。今回のものは少し性格が違います。増えたのは書類ではなく、目を配る対象の範囲です。この改正に記録や保存の義務はなく、求められているのは、同じ場所で働いている人に対して連絡調整を実際に行うことです。
そうすると、問いは「どこまで面倒を見るのか」ではなくなります。「いま、誰がどこにいるのかを、どうやって知るのか」です。答えは仕様表よりも、現場の運用に近いところにあります。着用率、画面の枚数、残る記録。この三つで見れば、選択肢は速く絞れます。
ORBROは、UWBによる屋内測位、映像からの事象検知、そして両方を一枚の図面の上で扱う管制プラットフォームORBRO OSまでを自社で作っています。現場の規模や協力会社の構成によって、アンカーの配置も運用の基準も変わります。どんな現場で、何がいちばん気がかりかを書いてお問い合わせいただければ、そこから一緒に検討できます。
参考:労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号、2025年5月14日公布)、厚生労働省「同法の概要」、労働安全衛生法第28条の2および第57条の3。適用は現場の条件や契約の形によって変わるため、最終的な判断は厚生労働省の公表資料と労働基準監督署への確認が必要です。