転倒災害対策と高年齢労働者の労災防止、2026年4月に始まった努力義務時代の現場づくり

2026-09-03

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転倒災害対策と高年齢労働者の労災防止、2026年4月に始まった努力義務時代の現場づくり

職場の転倒災害対策が、いま改めて問われています。厚生労働省が2026年5月27日に公表した令和7年(2025年)の労働災害発生状況(確定値)では、労働災害による死亡者数が700人と過去最少になった一方、休業4日以上の死傷者数は135,333人とほぼ横ばいでした。そのうち60歳以上の高年齢労働者は42,318人で全体の31.3%を占め、過去最多を更新しました。事故の型別で最も多いのは「転倒」の37,195人で、前年より2.2%増えています。

死亡災害を減らす取り組みが成果を上げる一方で、転倒を中心とする死傷災害は減っていません。この構図の背景にあるのが、働く人の高齢化です。厚生労働省が令和6年統計の参考資料で示した分析では、60歳以上の死傷度数率は30歳代と比べて男性で約2倍、女性で約5倍に達します。同じ職場で同じ作業をしていても、年齢によって被災リスクは大きく異なるのです。

この現実を受けて、2026年4月1日から、高年齢労働者の労働災害防止対策が労働安全衛生法上の努力義務になりました(第62条の2)。あわせて「高年齢者の労働災害防止のための指針」が適用され、従来のエイジフレンドリーガイドラインは法定指針へと引き継がれています。

本稿では、最新統計が示す転倒災害の現状、2026年4月の制度変更の内容、そして職場環境の改善と並ぶもう一つの軸である「早期発見」の仕組みづくりまで、高年齢労働者の転倒災害対策を整理します。

I. 統計が示すもの、死亡は過去最少でも転倒は最多

令和7年の確定値をあらためて見ると、死亡者数700人は前年比6.2%減の過去最少です。長年の設備対策や規制強化が、死亡災害を着実に減らしてきたことを示す数字だと言えます。

一方、休業4日以上の死傷者数は135,333人で前年比0.3%減にとどまり、厚生労働省自身が「横ばい」と表現する水準です。その最大の内訳が転倒で、37,195人と死傷災害全体の3割近くを占め、しかも増えています。段差につまずく、濡れた床で滑るといった同一平面上での転倒は、建設業や製造業に限らず、どの業種のどの職場でも起こり得る災害です。

そして死傷者に占める60歳以上の割合は、前年の30.0%かも31.3%へ上昇し、42,318人と過去最多になりました。転倒は加齢との関係が深く、労働力の高齢化が進む以上、対策を打たなければ今後も増えることが見込まれる災害類型です。

II. 2026年4月から何が変わったのか

2025年5月14日に公布された改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号)により新たに第62条の2が設けられ、2026年4月1日から施行されました。事業者は、高年齢者の労働災害を防止するため、作業環境の改善、作業の管理その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない、という努力義務です。

これに基づき、厚生労働省は2026年2月10日に「高年齢者の労働災害防止のための指針」を公示し、指針は同年4月1日から適用されています。2020年に策定されたエイジフレンドリーガイドラインは2026年3月31日で廃止され、法律に根拠を持つ指針へと格上げされました。指針の柱は次の5つです。

1. 安全衛生管理体制の確立

経営トップが方針を表明し、高年齢労働者の労災防止に組織として取り組む体制を整えます。

2. 職場環境の改善

照明の確保、段差の解消、滑り防止、手すりの設置など、転倒しにくい環境をつくります。

3. 健康や体力の状況の把握

健康診断や体力チェックなどを通じて、一人ひとりの状況を把握します。

4. 状況に応じた対応

把握した健康・体力の状況に応じて、作業の割り当てなどを調整します。

5. 安全衛生教育

高年齢労働者の特性に配慮した安全衛生教育を行います。

努力義務であるため、違反に対する直接の罰則は定められていません。ただし行政指導の対象となり得るほか、民事上の安全配慮義務(労働契約法第5条)の判断に影響し得ると広く解説されています。自社に求められる具体的な内容は、厚生労働省の公表資料で確認することをおすすめします。なお、2026年に施行が本格化した改正労働安全衛生法の全体像は、改正労働安全衛生法2026年の総まとめ記事で整理しています。

III. 転倒災害のもう一つの顔、発見の遅れが重症化を分ける

指針の柱の一つである職場環境の改善は、転倒を「起こさない」ための予防策です。段差の解消や手すりの設置が最初に取り組むべき基本であることは変わりません。

ただ、転倒は完全にはゼロにできない災害でもあります。だからこそ、予防と並んで「起きたときにどれだけ早く気づき、対応できるか」が重要になります。転倒した本人が自力で起き上がれない場合や意識を失っている場合、発見が遅れるほど対応も遅れてしまいます。

発見が遅れやすい状況は、現場を思い浮かべれば具体的に見えてきます。倉庫の奥や機械室のような人通りの少ない区域での一人作業。夜間や早朝など、フロアにいる人が少ない時間帯。人手不足で巡回の頻度を上げられない少人数運用の現場。いずれも「誰かが偶然通りかかって気づく」ことに頼れない条件です。高年齢労働者が増え、同時に人手不足が進む現場ほど、人の目だけで発見の仕組みを維持することは難しくなっています。

IV. テクノロジーが支える早期発見、転倒検知と屋内測位

こうした発見の遅れを減らす手段として、検知技術の活用が現実的な選択肢になっています。

カメラ映像を使う方法では、AI Event Managerのように、映像から人が倒れた状態をAIが検知し、管理者へ即時に通知する仕組みがあります。人が常時モニターを見ていなくても、倒れ込みという事象の発生を検知した時点で知らせてくれる点が特徴です。

カメラの視野が届かない区域や一人作業の見守りには、作業者が身につけるタグを使う方法があります。ORBROのUWB RTLS(屋内測位システム)のタグは、一定時間動きが確認できない場合の無動作検知と、本人がボタンで知らせるSOS機能を備え、屋内測位(位置測位)によって、異常を知らせているのが「誰で、建物内のどこにいるのか」まで特定できます。発見と同時に駆けつけ先が分かることは、対応の速さに直結します。

そして、検知した情報を現場の運用につなげる層としてORBRO OSがあります。現場の図面やデジタルツイン上に転倒リスクの高い区域や一人作業区域を設定し、アラートがどこで発生し、誰がどう対応したかを一つの画面で記録・管理できます。

ここで押さえておきたいのは、これらの技術が努力義務や指針を「満たす」ことを保証するものではない、という点です。制度上何が求められるかは厚生労働省の公表資料に基づいて確認したうえで、技術はその中の「発見と対応の遅れを減らす手段」として位置付けるのが適切です。

V. エイジフレンドリー補助金と導入時の検討ポイント

高年齢労働者の労災防止対策には、国の補助制度があります。令和8年度(2026年度)のエイジフレンドリー補助金は、次の3コースで構成されています。

コース 補助率 上限額
専門家総合対策コース 第1段階(リスクアセスメント)4/5、第2段階(設備導入等の対策実施)1/2 両段階合計で100万円
熱中症対策コース 1/2 100万円
コラボヘルスコース 3/4 30万円

申請期間は2026年5月20日かも10月31日までです。ただし専門家総合対策コース第1段階のリスクアセスメント実施申請は8月31日が締切で、すでに受付を終了しています。郵送に加えてJグランツによる電子申請も可能です。注意したいのは、補助対象となる機器・設備が年度によって見直される点です。たとえば令和8年度はWBGT指数計が補助対象外となる一方、通信機能により集中管理でき深部体温を推定できるウェアラブルデバイスは熱中症対策コースの対象と明記されています。見守りや位置情報システムの扱いは公式資料に個別の明記がないため、検討中の設備が対象になるかどうかは、必ず最新の交付要領で確認してください。

制度の確認と並行して、現場側で検討しておきたいポイントを挙げます。

1. 転倒リスクの棚卸し

どの区域で、誰が、どの時間帯に転倒リスクが高いかを洗い出します。一人作業の区域や夜間帯は、発見の遅れという観点も含めて確認します。

2. 予防と検知の役割分担

段差解消や手すり設置といった環境改善が土台で、検知はそれを補完する早期発見の層です。両方を一枚の計画に載せると、投資の優先順位が付けやすくなります。

3. 発見後の対応手順の設計

通知を受けたら誰が駆けつけるのか、搬送や連絡はどう進めるのか。検知の仕組みは、対応手順とセットで初めて機能します。

4. 従業員への説明

位置情報を扱う仕組みは、利用目的を従業員に明確に説明し、安全のための仕組みだという理解を得たうえで運用することが定着の近道です。

おわりに

死亡災害が過去最少となる一方で、転倒は増え続け、被災者の3割超を60歳以上が占めています。2025年の統計が描くのは、日本の労働災害の主戦場が「高年齢労働者の転倒」へ移りつつある姿です。2026年4月の努力義務化と新しい指針は、この課題を個々の現場の工夫任せにせず、経営として取り組むべきテーマに位置付けたものと言えます。

対策の両輪は、転倒しにくい環境をつくる予防と、起きてしまった転倒にすぐ気づく早期発見です。ORBROは、UWB RTLSによる屋内測位と無動作・SOS検知、AI Event Managerによるカメラベースの転倒検知、そしてそれらを現場のデジタルツイン上で一元管理するORBRO OSまで、現場全体をひとつの画面で把握できる統合型プラットフォームを提供しています。高年齢労働者の転倒災害対策をどこから始めるか、現場の状況に合わせた構成のご相談も承っていますので、お気軽にお問い合わせください。