来場者動線分析、タグを配れないときにカメラとスマートフォンのどちらを使うか
2026-09-22
四日間の博覧会を準備していた事務局の担当者が、来場者動線分析の問い合わせにこう書いてきました。年に四日しか開かない催しなので機器を買って据え付けるのは難しく、来場者全員にタグを配ることも難しい、と。先月このブログでは、タグを付けられない資産の話をしました。人は資産よりもっと難しいのです。同意を得なければならず、返してもらわなければならず、アプリを入れてほしいと頼まなければなりません。
ところで、展示会場や美術館、大型の公共施設から届く問い合わせは、決まって一つのことを一緒に尋ねます。AIカメラでできるのか、ビーコンでできるのか、アプリでできるのか。三つは競合関係ではありません。条件が違えば答えが違う、三つの道具です。この記事では、その条件を四つ立てて、どの道具がどこに合うのかを分けます。
I. 人に付けられないときに残る三つの方式
一つめはAIカメラです。ORBROの映像位置測位 AI RTLSは、タグなしでカメラ映像だけから人と車両の動きを認識し、地図上にリアルタイムで表示します。すでに設置されているCCTVの映像を受け取って使うことができ、エリアごとの人数集計と滞在ヒートマップ、出入りのピープルカウントが同じ画面に出ます。
二つめはスマートフォンです。来場者が公式アプリや展示案内アプリを入れていれば、会場の柱に貼ったビーコンをアプリがスキャンし、どのエリアにいるかを知らせます。モバイル位置測位に使うビーコンは電源もネットワークも要らない独立型の装置なので、四日間の催しでも貼って剥がすだけで済みます。精度は約5〜10m、エリア単位です。
三つめは来場者証タグです。ネックストラップ式の来場者証にUWBタグを入れて配る方式で、一つひとつの個体が精密に捕捉され、特定の来場者の動線を追うことができます。代わりに配布と回収という運用が付いてきます。その運用の設計は、先月の展示会場の来場者動線の記事で扱いました。
三つの方式は、ORBROの展示施設の来場者動線分析ソリューションのページに並べて載せています。当社が一つを推さず三つを併記する理由が、次の章です。
II. 来場者動線分析は四つの条件が決めます
| 条件 | AIカメラ AI RTLS | スマートフォン + ビーコン | 来場者証タグ |
|---|---|---|---|
| 身元が必要か | 身元のない個体と人数 | アプリのアカウント単位 | 来場者証番号と紐づけ可能 |
| 開催期間 | 常設に有利、カメラの設置とマッピングが必要 | 臨時の催しに有利、ビーコンを貼るだけ | 配布・回収の人手があればどこでも |
| 既存カメラ | あればすぐ、なければ設置 | 無関係 | 無関係 |
| アプリ導入の要求 | 不要 | 必須、入れた人だけ観測 | 不要 |
| 位置の単位 | カメラ視野内の座標とエリア集計 | エリア、約5〜10m | UWBの精密測位、個体追跡 |
| 死角 | カメラ視野の外、人が重なる場所 | アプリを入れていない人 | 未着用と未回収 |
| 運用の負担 | カメラのマッピングと関心領域の設定 | ビーコンの取り付けとアプリの配布 | 配布・回収・消毒 |
分ける問いは二つです。「誰が」が必要なのか、それとも「何人がどこにどれだけ」で足りるのか。そして、来場者に何を頼めるのか。頼めることが少ないほどAIカメラの側へ、特定の人を追う必要があるほどタグの側へ傾き、すでにアプリがあればスマートフォンがその間を埋めます。
III. AIカメラによる人流分析が合う場面
常設の展示施設や大型の公共施設のように、カメラがすでに掛かっていて人が入れ替わり続ける場所です。ある公的機関は、すでに数十台が設置された施設で特定の対象の位置を映像で追えるかを尋ね、ある美術館は開館前の工事段階で、面積あたりどのくらいの人数まで見られるかを尋ねました。どちらの質問も、来場者には何も求めていません。
AIカメラの方式が扱うのは顔ではなく動きです。画面の中の人を個体として捉えて座標に変え、エリアに出入りする数を数え、長くとどまる場所を色で塗ります。どのブースの前に人が集まるか、動線がどこで途切れるかは、この人流分析だけで出ます。
限界もはっきりしています。カメラの視野の外は存在しないのと同じで、人が重なれば個体が途切れ、照明が変われば認識が揺れます。ですからAIカメラ方式の設計は「何台をどこに付けて、どのエリアを見るか」から始まります。既存のCCTVをそのまま使えるかどうかは、先月の既存CCTVの記事の五つの基準でまず確認します。
判断はこうです。身元なしで流れを見る用途なら、AIカメラが来場者に最も少なくしか求めない道具です。
IV. スマートフォンが合う場面
来場者がもともとアプリを入れることになる催しです。事前予約と入場、展示解説をアプリで行う博覧会なら、そのアプリにSDKを組み込むだけで位置の観測が始まります。ビーコンはブースの柱に貼り、催しが終わったら剥がせば済みます。四日間の催しにカメラを新しく付けることはできない、というあの事務局の条件に合うのが、この方式です。
正直に書いておくべきことがあります。観測されるのは、アプリを入れて権限を与えた人だけです。ですから数字は「観測されたセッション」であって、来場者の全体ではありません。標本として統計が成り立つかどうかがこの方式の検証項目で、それを試験運用で先に確認します。
判断はこうです。アプリがあれば最も軽い道具、アプリがなければ成り立たない道具です。
V. 来場者証タグが合う場面
特定の来場者の位置が必要なときです。招待客の動線を案内スタッフが先に把握しておくこと、子どもの来場者が指定エリアを出たときに知らせること、実演エリアに今何人入っているかを精密に数えること。これらがここに入ります。AIカメラは「誰か」を知らず、スマートフォンは頼みごとが必要ですが、来場者証は入場のときにすでに手渡しています。
その代償が配布と回収です。タグの数量、子ども用の安全ストラップ、消毒と再利用、未返却の通知までが運用の設計であり、これが測位より先に決まっていなければなりません。
VI. 三つとも入れればよいのでは
反論が一つあります。カメラも付けてビーコンも貼ってタグも配れば、最も正確なのではないか、というものです。実際にそう構成する現場もあります。ただし一つ、分かったうえで進む必要があります。三つの方式が観測している対象が違う、という点です。タグを受け取った来場者の記録と、カメラに捉えられた区間の集計は、同じ人を数えていません。二つの数字が食い違ったときにどちらを基準に読むかを、エリアと時間帯の単位であらかじめ決めておかないと、正確なデータ二つが互いを疑い始めます。
ですからお勧めする順序は、問い一つに方式一つです。混雑状況と滞在はAIカメラ、アプリ利用者の動線はスマートフォン、特定の来場者はタグ。三つが一つのORBRO OSの地図の上に載ったとしても、それぞれが答える問いは違います。
VII. 導入の前に決めておくこと
- 知りたいことを一文で。「何人がどこにどれだけ」なのか、「誰がどこに」なのか。
- 期間。常設なのか数日なのかが、AIカメラとビーコンを分けます。
- 既存カメラの位置と仕様。映像を受け取って使えるか、視野が関心エリアを覆っているか。
- 来場者に頼めること。アプリの導入か、来場者証の着用か、何もないか。
- 残すデータの範囲。身元のない座標とエリア集計までなのか、来場者証番号と紐づけるのか。
- 試験運用。標本として統計が成り立つか、カメラの台数と位置が十分かを、本番の前に確認します。
おわりに
あの博覧会事務局の条件をもう一度見ます。四日間、買えない機器、配れないタグ。条件三つを表に入れると、答えは絞られます。アプリがあればビーコン、なければ臨時に立てるカメラ数台と関心エリアの設定。タグは招待客だけに。
人は資産より付けにくいのです。ですから設計の出発点は、何を頼むかではなく、何を頼まなくても済むかを決めることです。ORBROはAIカメラによる映像位置測位と、ビーコンによるモバイル位置測位、UWBタグをすべて自社で作り、ORBRO OSの一つの地図の上に載せているため、現場条件に合う方式一つで始めて、必要になったときに足すことができます。開催期間と空間、知りたい問いだけ書いてお問い合わせいただければ、来場者動線分析にどの方式が合うかを一緒に見極めます。