工場の台車管理、運搬台車を増やす前に確かめる四つの数字
2026-09-29
組立ラインの投入口の横、台車が止まっているはずの場所が空いています。次の部品を取りに行く空の台車がなく、台車管理を任されている資材担当者が工場を一周し始めます。空の台車四台は、しばらくしてから反対側の出荷場横の通路に並んでいるのが見つかります。探すのに使った時間は、どこにも残りません。
同じ週の生産会議には、台車が足りないので何台か増やそうという議題が上がります。正しい判断かもしれません。ただ、その場で誰もすぐには答えられない問いが一つあります。いま工場の中の台車が、どの区域に何台ずつ止まっているかという問いです。
台車管理が後回しになりやすいのは、台車がその上に載った部品より重要でなさそうに見えるからです。部品には品番とロットが付きますが、台車には番号が一つあるだけで、その番号がいまどこにあるかはたいてい書かれていません。この記事では、工程のあいだを循環する台車を一つの資産として見て、運搬台車を増やす前に確かめる四つの数字と、その数字を区域単位の位置で得る方法を整理します。
I. 台車管理で数えるべき四つの数字
製品は工程を一度通れば終わりですが、台車は戻ってきます。部品を載せて待機区域へ行き、投入の順番を待ってからラインの横で空になり、空のまま回収されてまた積み込みの場所へ向かいます。台車一台の一日は、この輪を何周か回ることです。
トヨタ生産方式は、ジャスト・イン・タイムを実践する三つの原則の一つに、物や情報を途中で停滞させないことを挙げています。台車で部品を運ぶ工場なら、物が止まった場所が、そのまま台車の止まっている場所です。
台車を資産として見ると、数えるべき数字は四つにまとまります。一つめは空の台車がいまどこに何台あるか、二つめはどの区域に台車がたまるかです。三つめは台車が工程の前で待つ時間、つまり工程の滞留時間で、四つめは台車一台が一周するのにかかる時間です。前の二つはいまの配置を、後の二つは流れの速さを示します。
台車に載った製品がいつどの工程を通ったかは、別の問いです。その履歴を位置データで残す方法は製造トレーサビリティを扱った記事にまとめました。この記事は荷物ではなく、台車そのものを見ます。
II. 巡回、スキャン、タグが台車管理で見落とすもの
台車を把握するよくある方法は三つです。担当者が見て回ってホワイトボードに書く方法、工程ごとに台車番号をスキャンする方法、台車にタグを付けて区域で検知する方法です。三つは費用より先に、記録が生まれる瞬間が違います。
| 確認すること | 巡回とホワイトボード | 台車番号のスキャン | BLEタグの区域検知 |
|---|---|---|---|
| 記録が生まれる瞬間 | 人が見に行ったとき | 誰かがスキャンしたとき | 台車が区域で検知されたとき |
| 空の台車の位置と台数 | 見て回れば分かる | 最後にスキャンした地点までしか分からない | 回収区域の現在台数 |
| 台車がたまる区域 | 目立つほどたまってから | スキャン地点がある場所だけ | 区域ごとの台数の時間帯別の推移 |
| 工程の滞留時間 | 残らない | 二つのスキャンのあいだから推測 | 区域の滞在時刻から計算 |
| 人がすること | 巡回と板書 | 工程ごとのスキャン | タグの取り付けと電池交換 |
| 分からないこと | 見ていない時間 | スキャンしていない移動 | 積載の有無、区域の中の正確な場所 |
分かれ目は最初の行にあります。巡回とスキャンは人が動かないと記録が生まれず、タグは台車が動けば記録が生まれます。工程の滞留時間と一周の時間は、一日じゅう同じ基準で積み上がった記録があってはじめて出る数字なので、人の手に頼る方法では、いくつかの場面の標本しか得られません。
最後の行も見ておく必要があります。タグは台車がどの区域にあるかは分かっても、空かどうかは分かりません。
III. 台車の状態は区域の地図で決めます
台車にBLEタグを付け、待機場所と生産場所にTwinTracker BLEの受信機を取り付けます。受信機はPoEで電源と通信を一緒に受けます。管制ソフトウェアORBRO OSはタグが検知された区域を工場の図面に表示し、タグ番号を台車番号とひも付けておけば、台車ごとに検知された区域を示します。
設計の条件が一つあります。TwinTracker BLEはタグに最も近い受信機を基準に位置を判断し、ORBROが公開しているBLE位置測位の精度表記も、受信機を基準にした3m以上のゾーンです。結果が座標ではなく区域だという意味で、区域をどこまで細かく分けるかは受信機の配置が決めます。隣り合う二つの待機場所を別々に見るには受信機も分けて取り付ける必要があり、設備やラックが信号を遮る場所は、設置前に別に確認します。
積載の有無が分からないという空白は、区域の名前で埋めます。積み込み区域、工程前の待機区域、ライン横の投入場所、空の台車の回収区域、通路をそれぞれ区域として描いておけば、台車がいる区域がそのまま台車の状態になります。回収区域の台車は空の台車として、待機区域の台車は荷を載せた台車として読むやり方です。決まりを破って止めた台車までは見分けられないので、載せた資材の品目と数量は、これまでどおり台車番号にひも付けた資材リストで確認します。
だから、タグの数量より図面が先です。台車が通る場所を状態ごとに分けて線を引けば、受信機を何台どこに付けるかは、その線に沿って決まります。
IV. 台車がたまる区域と工程の滞留時間を見る方法
区域の地図ができれば、台車管理の四つの数字はORBRO OSのアプリから出てきます。
空の台車の位置と台数はZone Countingが数えます。タグのカテゴリを台車用に別に作っておけば、人のタグと混ざらず、台車だけが区域ごとの現在台数と累計台数で集計されます。ここに条件の通知をかければ、画面を見張っていなくても済みます。回収区域の空の台車が決めた台数以下に減ったり、待機区域の台車が決めた台数以上に増えたりすると、通知が届きます。交代のときは、引き継ぐ人と引き受ける人が同じ画面を見ながら、確認する台車を分けます。
たまる区域は、同じカウントの時間帯別のグラフに表れます。ある工程前の待機区域の台数が毎日同じ時間帯に膨らむなら、台車の数より先に、その工程の処理速度を見てみるべきだというサインです。
工程の滞留時間と一周の時間には、Timelineが答えます。台車を一台選ぶと、その日どの区域に何時何分から何時何分までいたかが時間の順に出てきます。結果をExcelでダウンロードして待機区域の滞在時間を台車ごとに整理すれば工程の滞留時間になり、同じ積み込み区域にまた入ってくるまでにかかった間隔が、その台車の一周です。
台車があってはいけない場所も、区域で守ります。非常口の前や主通路をAlert Zoneに指定すれば、台車が入ったときに通知と記録が残ります。受信範囲の外に出たり電池が切れたりして信号が途絶えたタグは、オフライン転換の通知で分かります。通知が台車を動かしてくれるわけではありません。どの台車を誰が動かすかは、担当者が現場の手順に従って決めます。
反論が一つあります。タグと受信機を入れるくらいなら、運搬台車を何台か買い足すほうが簡単ではないか、というものです。台車が本当に足りない工場なら、それが正しい答えです。しかし台車が特定の区域で止まってしまう工場なら、新しく入れた台車も数周後には同じ区域に行って止まります。二つの場合を分けるのが、区域ごとの台数と一周の時間です。数字を見てから買っても、遅くはありません。
V. 導入前に整理しておきたい五つのこと
- 台車の種類と台数、番号の体系。タグ番号を台車番号に一つずつひも付けるので、番号のない台車から番号を付けます。
- 台車が通る場所と台車置き場の一覧。積み込み、待機、投入、回収、通路のように状態ごとに分ければ、そのまま区域の地図の下書きになります。
- タグを付ける位置。資材を積み下ろしする作業や移動の邪魔にならない位置である必要があります。金属のフレームや載せた資材が信号を遮ることがあるので、資材を載せた状態で受信を確かめます。
- 通知の基準値。回収区域に何台以下なら不足、待機区域に何台以上なら停滞と見るかは、現場が決めます。最初の数週間は通知を出さずにグラフだけを見て値を決めるほうが安全です。
- 既存の記録とのつながり。資材番号と台車番号を照らし合わせる管理台帳は、そのまま使います。位置データを他のシステムへ渡す必要があれば、ORBRO OSのREST APIトークン発行とMQTTアカウント作成の機能を出発点に、連携の範囲を別に協議します。
おわりに
組立ラインの投入口の横の空き場所に戻ってみます。担当者が工場を一周する前に画面を開けば、回収区域に空の台車が一台もないことと、出荷場横の通路区域に四台止まっていることが先に見えます。生産会議の議題も変わります。台車を何台増やすかを問う前に、台車がなぜその通路で止まったのかを問うことになります。
ORBROはタグとTwinTrackerの受信機、管制ソフトウェアORBRO OSを自社で作っています。そのため台車の区域の位置が人や他の資産の位置と同じ図面に載り、より精密な位置が必要な区間が出てくれば、その区間にUWBを足して同じ画面で見ることができます。UWBで工程ごとの滞在時間を比べる構成は、ORBROの製造工程ボトルネック分析で紹介しています。台車の台数と台車が通る場所を教えていただければ、区域をどう分け、受信機をどこに置くかから、台車管理を一緒に検討します。